うきは百姓組 とまと農家石井 敦士さん
今日おじゃましたのは、筑後のうきは市でトマト農家をしているまっか農園の石井敦士さん。
彼は、地元の若手農家さんたちと「うきは百姓組」というユニットを組んで、
農にまつわる情報発信をしたり、
イベントを企画し地域を盛り上げながら自分たちの食材を知っていただく活動をしています。
うきは百姓組の大きな特徴は、メンバー全員がみんな野菜ソムリエの資格を持っていること。
もちろん石井さんもそうです。
代々トマトを育ててきた農家さんならではのノウハウに加えて、
石井さん自身のセンスや野菜ソムリエとしての知識が生かされたトマトは、
私のお気に入りです。
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きれいなハウスの、甘いトマト
石井さんがトマトを育てているハウスの中は、
すっきりと清潔感のある空間が広がっています。
淡いグリーンのトマトの木が並んでいて、とても爽やかな雰囲気。
「蜂がブンブン飛んでいるけど、刺したりしないので大丈夫ですよ」。
と石井さんが言うように、ここでは蜂がトマト畑を飛び回って、
受粉をする仕事を担っています。
薬剤で受粉することもできるけど、それだと外皮からトマトが大きくなるらしく、
蜂が受粉してトマトの内側から大きくなるものとは違う仕上がりになるようなのです。
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石井さんがつくるトマトの中でも、私がよく取り寄せるのが「ミディトマト」です。
赤、黄色、紫のミディトマトがつくられていますが、紫ってちょっと珍しいですね。
でも、他の色のトマトとはまた違う甘みや旨みがあって、これはこれで面白い。
出始めの12月頃は酸味が強いけど、4月から5月の頃には甘味が出てきます。
そんなカラフルなトマトを眺めながら、ハウスを歩いてみる。
葡萄みたいに鈴なりになったトマトをちぎって、そのままかじってみる。
気を付けないと服に飛び散ってしまうほど、
パーンと張ったトマトの中からは勢いよく果汁が飛び出してきます。
やっぱり、甘い。
石井さんのトマトは甘いんです。
スーパーのトマトと比べたら全く違う甘さ。
だから私も、思わず飛び出してくる果汁のように、
「このトマトからどんなスイーツをつくろうか?」という気持ちがどんどん湧いてきます。
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味がダメなときは、ナシ
石井さんのトマトはシーズン中、かなりの頻度で使います。
12月中旬の発売から5月末まで繰り返し取り寄せていて、特に3月から4月は多いです。
でも石井さん、味がダメなときは送ってこない。だから信用できる。
「トマトは基本的に花が良くないとダメ。
花が咲いた時点でどんな実になるかもう決まっているから、
花が咲く前から手を入れないと遅いんですよね」。
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石井さんはそう言って、ハウス内の環境やトマトの状態をみながら、
毎日水やりの調節をします。
繊細な変化に対応するために、全自動の機械ができることを、
あえて時間をかけて人の手でやっていく。
そういう積み重ねが、石井さんのトマトを甘く美味しく育てていくのでしょう。
そして話題は、無農薬・有機農法の話に。
石井さんのトマトは無農薬や有機栽培ではありません。
ただ私がスイーツを作るときには、安全性や健康のことを考えることも
プランニングの1つにはありますが、その前に念頭に置きたいのが「美味しい食材」です。
「美味しければ何をしてもいい、ということではないけど」と前置きをおいて、
石井さんは語ります。
「農薬を使わないで育てた農作物は、
自分の身を外敵から守るために外皮を硬くします。
それはあまり美味しくないかもしれないですね」
無農薬・有機は素晴らしいと思います。
でも世の中にはそれ以外にもいい食材があることも多々あり、
そんな食材たちと出会っていきたい。
料理家にとっては「美味しい」ことが評価されるということなので、
「美味しい」素材を選ぶことはとっても大切です。
石井さんはそれを分かってくれる人だから、信頼できます。
まさかの、ジュ―サー登場!
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そして今日は、私からのサプライズ。
ジュ―サーをハウスに持ち込んで、もぎたてトマトをジュースで飲んでみます。
「ハウスの中で、そんなことするのは初めてです!」という石井さんに、
どんぶり皿を借りて、今採ってきたトマトを入れてざぶざぶと水洗い。
「どれだけ飲むの!?」というくらい、ジューサーにトマトを詰め込み、
仕上げは蜂蜜とレモン汁で。
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「できた!」
石井さんのハウス初!トマトのフレッシュジュース。
自然な淡い赤の色あいと、少し果肉を感じるくらいの食感を楽しみます。
トマトの酸味が程よく、フレッシュさが際立つジュースです。
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一緒に飲んだ石井さんは、「次回のイベントで取り入れようかな」と前向き。
「どうやって消費者から選んでもらうか、というところまで僕たち農家は考えるべきですね。
消費者側もどんな人がつくっているのかを知って選ぶべきだと思う。
一番いいのは、生産者と消費者が顔を合わせて直接つながることですよね」。
石井さんから送られてくるトマトには、毎回手書きのお手紙が一緒に入ってきます。
小さいことだけど、生産者と消費者がダイレクトにつながっている感じって、
こういうところから始まるようなような気がする。
これからはそうやって農業自体が広がればいいと思うし、
そういう意味でも、石井さんのトマトを応援したいです。
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生産者さんのリアクション
「真理さんと出会うまでは、トマトがスイーツになる発想がなかった。
料理に使う野菜のイメージでしかなかったから、案外スイーツにできちゃうんだ!
とビックリしました」。石井さんはそう言ってくれます。
素材を知り尽くした生産者さんを驚かすことができたら、私の中では「やったー!」
という感じです。「本当にできるの?」と疑われるのも面白い。
今あるイメージから、全く新しいものをつくるのが私の仕事だと思っています。
今日つくるのは、まさにそんなスイーツ。
石井さんのトマトを活かした、デコレーションケーキ。
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スポンジの間に黄色と紫のミディトマト、甘い生クリームを重ねていきます。
トマトには砂糖は合わないというけど、そんなことはないです。
甘いのが苦手なら、生クリームにサワークリームを混ぜると、
酸味があって食べやすくなります。
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そうして、表面を生クリームでデコレーション。赤と黄色のミディを並べます。
紫のトマトは色味が悪いので中に入れましたが、
季節が温かくなると甘くなって美味しいです。
イチゴの赤はビビッドだけど、トマトの赤はまた違っていい感じ。
夏場にはスイーツに合うフルーツが少なくなるから、トマトを使うのはアリです。
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「この素材をどうるすか?」
生産者さんから直に買う時は、そこから先に考えます。
石井さんのトマトは甘いから、あまり火を加えない方がいいというのが私の結果論。
冬は皮が厚いけど、春はやわらかくなるから湯むきはしません。
そうやってできたスイーツは、いい意味で生産者さんを驚かせます。
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使えない概念を、外す
一般的にスイーツでトマトを使う場合は、甘みのあるミニトマトを使って、ゼリーやジャムがつくられることが多いです。
でも、私はあえてそれはせず、ミディトマトをイチゴのように使ったロールケーキを作ってみたり、
ガトーショコラにトマトを乗せたりしています。
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実際に今日つくったトマトのデコレーションケーキもそう。
生クリームと砂糖のまろやかな甘さと、トマトの酸味とのバランスがちょうど良くて、
味にコントラストがあるから、食べていても飽きません。
「トマトは料理にしか使えない」と断言したら、トマトの可能性を狭めることになります。
同じように「ケーキに納豆は使えない」といった概念も外す。
今までにないものを創っていくのが、スイーツプランニングです。
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ケーキを楽しんでもらいたい。
ワクワクしてほしい。
だからユーモアがあるものにしたい。
ただし、チャレンジし過ぎて微妙な味になるのはちょっと違います。
食べる時の「あっ!」という限界は超えないようにする。
「美味しい」は外せない絶対条件です。
そして「美味しい」は人それぞれだけど、私は最終的に自分の中の「美味しい」を信じてスイーツをつくります。
スイーツを通して不可能を可能にする。
それによって素材を使う幅が広がって、生産者さんへの需要も増える。
この循環を編み出すのが、スイーツプランナーとしての私の役目だと思っています。